EVリコール問題と連動、電池品質責任の新局面

中国・吉利(ジーリー)グループと車載電池大手の欣旺達(サンオーダ、Sunwoda)との間で争われていた電気自動車(EV)用電池を巡る巨額訴訟が今月、和解に至った。当初約23億元(約500億円)に上った損害賠償請求は、サンオーダ側が約6億元を支払うことで決着した。問題の背景には、吉利傘下の恒久EVブランド「Zeekr(ジーカー)」などで実施されたリコール案件があるとみられ、EV時代の品質責任の所在を巡る象徴的なケースとして業界の関心を集めている。
「Zeeker」リコールが発端、品質問題が表面化
紛争の引き金となったのは、吉利グループ傘下ブランドのEVに搭載された電池の性能問題だ。充電速度の低下、航続距離の急減、過熱リスクなどが指摘され、ボルボや高級EVブランドZeekrは北米やオーストラリア、カナダなどでリコール対応を迫られたとされる。
EVでは電池が車両コストの3〜4割を占める場合もあり、不具合は単なる部品問題にとどまらない。航続距離や安全性に直結するため、ブランド価値や販売戦略にも大きな影響を与える。特にボルボは安全性能をブランドの核に据えており、電池品質問題は企業イメージにも直結しかねない。
訴訟の核心は「セル品質」か「パック設計」か
昨年12月、吉利傘下の電池企業「威睿電動汽車技術(Vremt)」は、サンオーダが2021〜23年に供給した電池セルに欠陥があったとして約23億元の損害賠償を請求した。これに対しサンオーダは、最終的な電池パック設計やバッテリー管理システム(BMS)は完成車側の責任範囲にあると反論し、責任の所在を巡る対立が激化していた。
EV電池はセル、モジュール、パック、ソフト制御が高度に統合されたシステムであり、不具合発生時の責任分界は従来の部品以上に複雑だ。今回の和解ではサンオーダが約6億元を支払うとともに、交換費用を実際のコストに応じて比例分担することで合意した。双方に一定の責任があるとの現実的判断とみられる。
電動化戦略への影響、ボルボにとって試金石
2030年前後の完全電動化を掲げるボルボにとっても、今回のバッテリーリコール問題は今後の電動化戦略に少なからず影響を与えそうだ。なかでお、電動化の先導車「EX30」を普及EVの中核モデルと位置付けているなかで、今回の電池問題は同社の電動化戦略に複数の示唆を与える。その第一が、電池調達戦略の見直しだ。欧州メーカーの間では内製化や長期パートナー契約を通じた品質管理強化の動きが強まっており、ボルボも例外ではない。第二に、品質保証コストの増加である。EVではソフト更新だけでなく物理的な電池交換が必要になるケースもあり、リコール費用が従来車より膨らみやすい。第三に、ブランド価値への影響だ。安全性を重視する欧州プレミアムブランドにとって、電池品質問題は reputational risk(評判リスク)として経営上の重要課題となる。
EVサプライチェーンに広がる「品質連帯責任」
今回の和解はEV業界のサプライチェーン構造課題として注目を集めている。完成車メーカーはブランド防衛の観点から、電池サプライヤーへの責任転嫁を強めるようとしている。一方、電池メーカー側も品質保証体制やトレーサビリティへの投資を迫られており、単なる部品供給から共同開発パートナーへの役割変化が進む可能性が高い。さらに、OEMによる電池内製化の流れも加速しそうだ。欧州勢ではフォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツが電池技術の囲い込みを進めており、中国勢も同様の動きを見せている。
市場は「泥沼回避」を評価
和解発表後、サンオーダの株価は一時約7〜8%上昇した。長期化すれば財務負担や顧客関係に影響しかねなかった訴訟リスクが解消されたことを市場が好感した形だ。サンオーダにとっては2025年度純利益が5億〜8億元程度押し下げられる見通しだが、将来的な法的リスクは大きく低減したとみられる。
EV市場は販売拡大段階から品質・耐久性競争のフェーズへ入りつつある。電池は車両価値の中核であるだけに、品質問題は企業価値やブランド評価を大きく左右する。今回の吉利・サンオーダ和解は、EV産業が成熟に向かう過程で不可避となる品質責任ルール形成の一つの節目と位置付けられそうだ。
完成車メーカーと電池メーカーの力関係、品質保証の契約構造、さらには電池内製化の潮流――。ボルボのリコール問題を契機とした今回の事例は、EVサプライチェーンの再編を占う重要な指標として今後も注視されることになりそうだ。(2026年2月14日)