~IAAカンファレンスから~
欧州最大の自動車ショー「IAAモビリティ2023」が5日からドイツ・ミュンヘンで開幕した。ドイツメーカーをはじめ欧米の自動車関連企業やIT企業が、次代の自動車の姿を新たな技術とともに披露している。2035年までに脱炭素化をめざしEVシフトを加速しようとする欧州の立ち位置が反映されるとともに、世界のEVビジネスで欧州とりわけドイツとタッグを組みたい中国企業の積極的な姿勢が垣間見れる。
こうしたトレンドを如実に表しているのが、IAAモビリティならではの「カンファレンス」だ。5日から8日までの4日間で、200を超えるプログラムが組まれ、そこに6カ国から産学官500人以上のスピーカーが登壇する。テーマも多彩で、最新の自動車技術はもとより新たなデジタル体験や法規制のあり様、そして文化まで語られる。国籍も年齢も、そのキャリアも異なる人々が演壇に立つ。
スピーカーには中国の重鎮も
カンファレンスでは、ドイツ自動車産業界のトップが相次いでスピーチする。VWのオリバー・ブルーメ会長やメルセデス・ベンツのオラ・ケレ二ウスCEO、BMWのオリバー・ジプセ会長、マンのクルク・ウィルスCEOと錚々たる顔ぶれが並ぶ。もちろん、ティア1からもロバート・ボッシュのシュテファン・ハルトゥング会長やZFグループのホルガ―・クラインCEOも自動車産業の未来を語る。もちろん、欧州勢が中心で、クァルコムのクリスティアーノ・アモンCEOのほか仏ヴァレオのクリストフ・ペリラCEOもスピーチに立った。ハンガリーのペター・シィガルト外務貿易大臣もドイツ自動車産業界への熱い視線を送るひとりで、欧州陣営のモビリティの祭典として”商談の場”を感じさせる。
こうしたなか、話題を集めているのが中国勢の登場だ。ショーへの出展に一役買ったのがカンファレンスへの登壇につながっているかもしれないが、その顔ぶれをみると中国側の力の入り様が分かる。すでに、ニュースとして6日付けで取り上げられているように、中国EV界のリーダーともいえる中国科学技術協会(CAST)会長で世界新エネルギー車会議(WNEVC)会長を務める、中国の元科学技術相のワン・ヴン(万鋼)氏がその人。ロイターによると、ワン氏はバッテリー性能とEV構造、運転支援機能の向上がEV普及に重要と訴えたという。
さらに、中国メーカートップも参加した。上海汽車のチェン・ホン会長や重慶長安汽車のワン・ジュンCEO、さらに今をときめくEVメーカー・BYDのワン・チュアンフー会長も登壇した。カンファレンスに参加したスピーカーの出身国は公式には6カ国というが、実際のリストをみると8カ国を数える。ドイツのほか米国、フランス、ベルギー、オーストリア、チェコ、スウェーデンと中国。まさに、ドイツ周辺の欧州諸国と「中国」という構図が目を引く格好だ。
さて、日本の存在感は?という点だが、出展者としてデンソーの林新之助社長が自社ブースで記者発表し、「今年度中にハンガリーでインバーター生産を始める」と発表したとのこと。8月下旬にわざわざ事前リリースを仕掛けていたにもかかわらず…だ。
今年10月にはわが国でも名前を「ジャパン・モビリティ・ショー(JMS)2023」に一新し、過去最高となる400社以上の出展者を集めていわゆるモーターショーが開かれる。体験型コンテンツを設けたり、モビリティ関連企業とスタートアップ企業のビジネスマッチングを災害や少子高齢化、地域創生、環境そしてウェルビーイングなどをテーマに催す計画もある。”日本の未来をつくる”と題した「トークショー」も予定されているが、IAAのカンファレンスとは性格の異なるイベントだ。
JMSの催し内容に、「わが国の自動車産業はどのような未来を描いていくのだろうか」という解はあるのだろうか。少なくとも、世界の自動車関連ビジネスに従事する人々が東京を訪れ、日本の自動車産業界の動きに関心を寄せ、コラボしようとする動きは見られるのか。
《MOBI TIMES(モビ・タイムズ)》を立ち上げた理由にもなるのだが、わが国の自動車ビジネスはすでに世界に遅れているのはないか、という疑念が拭えない。かつて、東京のほかデトロイト、ジュネーブ、フランクフルト、パリでのモーターショーが世界の自動車ビジネスの潮流を示す5大ショーと呼ばれていた。しかし、今は昔。中国が世界最大の自動車市場となり、EV市場をけん引する。そこにテスラやBYDといった新興メーカーがシェアを高めている。かつての5大ショーのうち、少なくともIAAはこの時流をしっかりととらえているようにみえる。わが国の自動車産業の歩み方を、今年のIAAモビリティ2023は考えさせてくれるようだ。(保田明宏)