
独ボッシュは5日、独自開発した「Hybrion」PEM電解スタックを搭載した初の社内電解槽をドイツ・バンベルク工場で試運転開始した、と発表した。定格出力2.5メガワットのシステムで、再生可能電力を利用し、1日最大約1トンの再生可能水素を生成する能力を持つ。これは、同社の燃料電池パワーモジュール(FCPM)を搭載した40トントラックが約1万4,000キロメートル走行できる量に相当する。
バンベルク工場で水素環境を整備
今回の電解槽は、バンベルク工場内に構築された「水素環境(Hydrogen Environment)」の中核設備となる。工場内には電解槽、貯蔵設備、燃料電池システムが一体化されており、水素の製造から貯蔵、利用までのサイクルをリアル環境で検証できる。電解槽で生成された水素はパイプラインを通じて「ライフタイムコンテナ」と呼ばれる試験設備に送られ、そこで燃料電池スタックの連続運転試験が行われている。ここで発生した電力は再び電解槽の運転に活用され、“製造と使用の循環実証”を形成している。
Hybrion技術、量産段階へ
電解槽の中心には、ボッシュが今年3月に発売したHybrion PEM電解スタック2基(各1.25メガワット)が組み込まれている。1基あたり毎時約23キログラムの水素を生成できる。スタックはすべて出荷前に実動作条件下で性能を検証し、顧客納入後すぐに稼働可能な状態で出荷される。バンベルクではさらに2基目のテストステーションも稼働しており、負荷変動など多様な運転プロファイルで性能と効率を確認している。水素貯蔵には高さ21メートル、最大圧力50バールのタンクを新設。バンベルク工場は、製造・試験・供給を一体化した「水素の実証拠点」として位置づけられる。
ボッシュ取締役会メンバーでモビリティ事業部門トップのマルクス・ハイン博士は「水素は気候中立社会に不可欠なエネルギー源であり、バンベルクでの試運転開始は当社にとって重要なマイルストーンだ」と強調した。また、パワーソリューション事業部長のトーマス・パウアー氏も「ボッシュは早期から水素技術に投資し、燃料電池と電気分解の両分野で市場投入可能なソリューションを提供している。ドイツ未来賞へのノミネートは、その先進性の証しだ」と述べた。
ボッシュは今年すでに電解技術を市場投入しており、IMIやNeumann Esser、Kyros Hydrogen Solutions、Pietro Fiorentiniなどへの納入を開始している。今後は欧州水素サプライチェーンの中核供給者として、産業・モビリティ両面での応用拡大をめざす。(2025年11月5日)