• 2025-12-16

SEAT&CUPRA、スペイン電動化の中核拠点が始動

フォルクスワーゲングループ傘下のSEAT&CUPRA(セアト&クプラ)は12日、スペイン・マルトレル工場でバッテリーシステム組立工場を稼働させた。電動化戦略の最終段階に位置づけられる重要拠点で、同社は同工場を軸に、スペインを欧州の電動モビリティの中核に押し上げる構えだ。

バッテリー工場の敷地面積約6万4,000平方メートル。設備投資額は約3億ユーロで、着工から2年余りで竣工した。45秒に1基のペースでバッテリーシステムを組み立て、1日当たり約1,200台、年換算で30万台の生産能力を持つ。完成したバッテリーは全長600メートルの専用橋を通じ、自動搬送で車両組立ラインに送られる。屋上には約1万1,000枚の太陽光パネルを設置し、バッテリー組立に必要な電力の約7割を再生可能エネルギーで賄う。雨水回収設備も備え、資源効率と環境負荷低減を両立させた。2026年以降、クプラの電動車「ラヴァル」と、フォルクスワーゲン「ID.ポロ」量産モデル向けに供給する。

開所式には、カタルーニャ自治政府のサルバドール・イラ議長や、産業・観光相のジョルディ・ヘレウ氏が出席。フォルクスワーゲングループからは、ブランドグループコアを率いるトーマス・シェーファー氏や、SEAT&CUPRAのマルクス・ハウプト最高経営責任者(CEO)が参加した。

ハウプトCEOは「バッテリー組立工場の稼働は、セアトとクプラの歴史における転換点だ。100%スペイン製の電動車を欧州市場に届ける準備が整った」と強調。電動アーバンカーファミリーの第一弾となるCUPRAラヴァルを皮切りに、「電動化のルールを変えるモデルを生産する」と述べた。シェーファー氏は「4年前に決断した歴史的投資が、今日、新たな章を開いた」と語り、ブランドグループ横断で進めるバッテリー戦略の成果だと位置づけた。

フォルクスワーゲングループの電池戦略を担うギュンター・メンドル氏は、「電動化の中核技術で“助手席”から“運転席”へ移行している」と指摘。マルトレルで組み立てられるMEB+向けバッテリーは、統一セルの導入やセル・トゥ・パック設計により、コスト競争力と柔軟性を高めた。リン酸鉄リチウム(LFP)電池の採用も進め、欧州における電池産業の自立に貢献する。

セアト&クプラは、VWグループの「電動アーバンカーファミリー」プロジェクトを主導。スペイン国内で3ブランド・4モデルの量産を計画しており、マルトレル工場ではID.ポロ、ナバーラ工場ではシュコダやフォルクスワーゲンの小型EVを生産する。VWグループではスペインに総額100億ユーロを投資し、そのうち30億ユーロをマルトレルの電化に充てる。年間最大60万台の生産能力のうち、将来的に半数を電気自動車(BEV)とする構想だ。

電動アーバンカーの先陣を切るクプラ「ラヴァル」は、2026年3月にバルセロナで世界初公開される予定。全長約4メートルのコンパクトEVで、MEB+プラットフォームを採用。航続距離は最大約450キロ、価格は2万6,000ユーロからとし、電動化の裾野拡大を狙う。バッテリー組立工場の稼働により、セアト&クプラは設計から生産、販売までを国内で完結させる体制を一段と強化した。マルトレルを起点に、スペイン発の電動化モデルが欧州市場へ本格展開される。

1996年にセアトが設けたハイパフォーマンスブランドで、2018年にセアトから独立している。2020年には初の専用車を発表したほか、2021年に同ブランド初の電気自動車を発表している。(2025年12月15日)