• 2026-06-09

欧州自動車部品工業会(CLEPA)は8日、EUの乗用車・バン向けCO₂排出規制の見直しに関するポジションペーパー(提言)を公表し、電気自動車(EV)を中心とした現行の脱炭素政策について「市場の現実との乖離が拡大している」と警鐘を鳴らした。2050年の気候中立目標への支持を改めて表明する一方で、プラグインハイブリッド車(PHEV)やレンジエクステンダーEV(EREV)、再生可能燃料なども活用する「技術中立」の政策への転換を求めた。

CLEPAは、欧州の自動車サプライヤー業界はEV化への巨額投資と需要低迷の板挟みに直面していると指摘。過去2年間で約10万4,000人の雇用が失われ、1日当たり142人のペースで人員削減が進行しているという。さらに76%のサプライヤー企業の営業利益率が5%未満に落ち込み、研究開発投資の余力が急速に低下しているとした。

また、CLEPAと経営コンサルティング会社ローランド・ベルガーの共同調査では、現行政策が続いた場合、2030年までにEUの自動車産業の付加価値の最大23%が失われる可能性があると試算している。

提言の柱となるのが、PHEVおよびEREVの位置づけ見直しだ。CLEPAは、これらの車両が欧州域内の雇用や生産拠点を維持し、輸入電池や重要鉱物への依存低減にも寄与すると指摘。中国、米国、日本が複数のパワートレーンを認める戦略を採用しているなか、EUだけがBEV(バッテリーEV)偏重政策を続ければ、欧州サプライヤーの国際競争力が損なわれると主張した。

具体策として、2027年以降に予定されるPHEVの「ユーティリティファクター(電動走行比率)」の厳格化凍結や、高性能PHEVに対する優遇係数の導入を提案した。さらに、再生可能燃料の活用促進も重要な施策として位置づけた。2035年以降も走行を続ける既販車の脱炭素化に有効とし、再生可能燃料を使用する車両をゼロエミッション車として認定する新カテゴリー創設や、燃料クレジット制度の上限撤廃を求めた。CLEPAは、再生可能燃料によって2026年時点で約15g/km、2035年には25g/kmのCO₂削減効果が期待できるとしている。

さらに、EU域内生産のEVを対象にした「スーパークレジット」の拡充も提案した。2035年まで少なくとも1.5倍の優遇係数を付与し、欧州域内へのEV生産投資を促進する考えだ。低炭素鋼材の活用促進策や、寒冷地での実航続距離を表示する「低温時航続距離ラベル」の導入も盛り込んだ。

【解説】

今回の提言は、欧州自動車業界がEVシフトそのものに反対しているわけではなく、「脱炭素の手段をEVに限定すること」への異議申し立てといえる。とくに中国市場ではEREVが急成長し、日本ではハイブリッド車が依然として高い競争力を持つ。欧州サプライヤー各社は、EV化推進と産業競争力維持の両立を図るため、EUに対してより柔軟な制度設計を求める姿勢を鮮明にした。

今回の議論は、EUが進める2035年エンジン車販売禁止方針や「産業アクセラレーター法(Industrial Accelerator Act)」の制度設計にも影響を与える可能性があり、欧州自動車政策の方向性を占う重要な論点となりそうだ。(2026年6月9日)