• 2025-09-04

【解説】フォード、EVに50億ドル投資 米国生産体制を再構築へ

8月11日、フォードは新しいフォード・ユニバーサルEVプラットフォームとフォード・ユニバーサルEV生産システムを披露した。

フォードモーターは、電気自動車(EV)戦略の中核として総額50億ドル(約7,500億円)を投資し、米国内の生産基盤を再構築する方針を打ち出した。ケンタッキー州ルイビルの組立工場とミシガン州ブルーオーバル・バッテリーパークで、新たな中型ピックアップと角形リン酸鉄リチウム(LFP)電池を生産し、約4,000人の雇用を創出・維持する計画だ。

コスト競争力と量産性を両立

新たに導入する「ユニバーサルEVプラットフォーム」は、部品点数を2割削減し、組立工程を効率化。これにより製造コストを抑えながら量産を可能にし、EV専業メーカーに対抗する価格競争力を確保する。2027年に投入予定の中型電動ピックアップは、約3万ドルの価格設定を掲げ、手頃さと性能の両立を狙う。

生産方式も刷新する。100年以上続いた流れ作業方式を改め、複数のサブアセンブリを並行生産する「組立ツリー方式」を採用。ルイビル工場では従来比最大40%の生産スピード向上を見込み、品質改善とコスト削減を同時に進める。

米国での生産・雇用を前面に押し出す点も今回の発表の特徴だ。ルイビル工場には20億ドルを投じ、時給労働者2,200人の雇用を維持。加えて、ミシガン州では30億ドルを投じてLFPバッテリーの量産体制を整備する。州政府もインセンティブを提示し、地域経済に大規模投資を呼び込む構図となっている。

フォードの取り組みは、EV市場でのシェア拡大を狙う攻勢であると同時に、価格競争の激化に対応する守りでもある。テスラや中国勢が低価格EVを次々に投入する中、3万ドル台の量産EVを確実に実現できるかは今後の焦点となる。投資家にとっては、効率化によるコスト改善と国内サプライチェーン強化が収益性の安定化につながるかが注目点だ。

一方、投入時期が2027年と先行きの不確実性が残る中、バッテリー価格や原材料供給の変動リスクも意識される。フォードの「米国に賭ける」50億ドル投資は、EV移行に向けた産業政策との呼応を強める一方で、同社の収益構造転換の成否を占う試金石となりそうだ。(2025年9月3日)