自動車メーカー7社が3万基設置へ
BMWやGMなど世界の自動車メーカー7社が合弁で北米での充電ネットワークづくりに乗り出す。EV用充電ネットワークを拡充しようとする米バイデン政権による「EV充電プログラム」をキッカケに、米国ではテスラによる事実上の充電規格標準化が進んでいるとみられていただけに、充電規格競争にも一石を投じることになりそうだ。
北米で充電ネットワークをつくろうと合弁で事業化するのは、BMWとGM、ホンダ、ステランティス、メルセデス・ベンツ、現代自動車、起亜自動車の7社。昨2022年の新車販売台数は7社合わせて2400万台余りと実に世界販売の3割近いシェアを持つグループの誕生となる。もちろん、BEVの販売台数では7社合わせても100万台程度。すでに1社で100万台規模を誇る専業のテスラやBYDに及ばないのは確かだが、ジョイベンが及ぼす影響は決して小さくない。
テスラ対抗との見方も
インパクトは2つ。ひとつは、これからのEV充電規格の行方だ。今年に入って、米国ではテスラの充電規格「NACS」を各社が受け入れる動きが加速し、テスラが事実上の充電規格標準を握ったと目されてきた。今回の7社合弁は、このテスラの動きに待ったをかけるものと見て取れる。しかし、単純に競争相手として対抗するというわけでもない。7社はこれまで北米と欧州の充電規格である「CCS」とともに、テスラの「NACS」も含めた2つの規格の充電ステーションを展開するという。つまり、テスラを仲間に迎え入れる気がある、というメッセージだ。実際、各社トップのコメントは対立よりも消費者の利便性に力点を置いている、ことがよく伝わってくる。
もうひとつの視点は、新たなグループとしての存在感だ。BMWのオリバー・ジプセCEOが合弁事業創設の立役者といえそうだが、その言葉からBEVのもとでも存在感を示すことのできる自動車メーカーとしての思いがうかがえる。この7社合弁にトヨタやVW、そして中国メーカーが加わっていないことは時間軸だけの事案だろうか。充電ネットワークという、新たなインフラ標準をリードできるメーカーグループが誕生した、といえる。
もちろん、7社のストーリーであれば、日本も中国も自分たちが推し進める充電規格をマーケットの実態に合わせて存続、言い換えれば両立させながら消費者のBEV利用をサポートできる。つまり、7社がいう「EV利用のカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)」がそれぞれの立場で実現できることになり、それだけEV時代の到来は早まることになる。
日本メーカーの道筋
わずか10日前、日産自動車が北米でテスラの充電規格NACSに対応すると発表した。EVの先駆者であり、わが国のEV市場を圧倒する日産のこの動きは、日本の充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」の行方を揺さぶった。今回の合弁話に、日産は関わらなかったのか、関わることができなかったのか。一方、トヨタ自動車はどうだったのか。すでに、レクサス系列でテスラのような独自の充電ステーションづくりに乗り出したトヨタにとって、こうした協業のハードルは高かったのか。一方で、この7社合弁に名を連ねたホンダは、電動化で勝ち残るための仲間を得たようにみえる。
「内燃機関から電動化」。自動車の大きな転換点に、「競争するところ」と「手を結ぶところ」は違うはず。充電インフラという社会共通の基盤は、少し前まで多くの人が競争領域とみていたが、この7社は連携領域ととらえた。EV時代を加速させる歴史的な橋頭堡が今築かれようとしている。