• 2026-09-05

VW、追加5万人削減へ 計10万人規模、欧州4工場も再編対象

VWグループ、メディア向けに説明するオリバー・ブルームCEO

フォルクスワーゲン(VW)グループは3日、監査役会が中長期の構造改革策「未来計画2030(Future Plan 2030)」を全会一致で承認したと発表した。管理職を含む約5万人を追加で削減する。すでに進めている約5万人の削減と合わせると、人員削減は世界で計約10万人規模となる。欧州では需要に対して50万台超の生産能力が余っているとして4工場の将来を見直すほか、2035年までにモデル数を約半分に絞る。中国勢との競争激化や米国の関税負担などを受け、規模拡大から収益性を優先する経営への転換を急ぐ。

VWは未来計画2030を「グループ史上、戦略的に最も踏み込んだ変革プログラム」と位置づける。商品、生産、人員、組織、地域戦略、投資などを対象とした12の施策を進める。財務面では2030年の営業利益率9%を主要目標に設定した。年間販売台数は900万台を前提とし、営業利益は約310億ユーロをめざす。2027~31年の設備投資と研究開発費は1,350億ユーロとする。商品戦略も抜本的に見直す。2035年までにグループのモデル数を約50%減らし、装備や仕様など商品構成の複雑さを約75%削減する。モデルを絞り込んで1車種当たりの生産台数を増やし、開発・生産コストを引き下げる。プラットフォームや電子アーキテクチャー、運転支援システム、ソフトウエアについても地域ごとの市場特性に合わせる。

焦点となるのが欧州の生産再編だ。VWは欧州の生産能力が現在の需要を50万台以上上回っていると明らかにした。エムデン、ツヴィッカウ、ハノーバー、ネッカーズルムの4工場について、2031~34年以降の競争力ある生産車種を現時点では確保できないとして、代替用途も含めて将来像を検討する。2027年6月末までに欧州工場の新たな生産体制をまとめる。

人員については、既存の合理化策とは別に約5万人の追加調整が必要になるとした。VWはすでにVWブランドやアウディ、ポルシェ、ソフトウエア子会社カリアドなどで約5万人の削減を進めており、今回の計画を加えると削減規模は計約10万人に達する。ロイターによると、VWグループの従業員約65万人の15%前後に相当する規模となる。従業員代表側は雇用への影響を警戒する。VWグループ中央労使協議会のダニエラ・カバロ議長は、変革の負担を従業員だけに負わせないことを強調し、「雇用の安定と経済的存続可能性は相反するものではなく、ともに企業目標だ」との考えを示した。

地域戦略では北米で収益性の高いセグメントに経営資源を集中する。中国では市場全体の成長見通しを修正するとともに、中国を生産・輸出拠点として活用し、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国市場への輸出を拡大する。投資先も選別する。保有する事業や出資先を戦略性と収益性の両面から精査し、ポートフォリオを約3分の1削減する。中核事業への貢献が乏しい事業は売却や再編の対象とし、不動産資産も見直す。

VWはVW乗用車をはじめ、アウディ、ポルシェ、シュコダ、セアトなど多数のブランドを抱え、幅広い車種を世界で販売することで巨大な生産規模を築いてきた。しかし、その強みだった多ブランド・多車種・多拠点という構造が、市場の成長が鈍る局面では固定費負担の大きさとなって跳ね返る。とりわけ大きいのが中国市場の変化だ。中国メーカーはEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を中心に商品投入の速度を高め、価格競争力だけでなく車載ソフトウエアやデジタル機能でも存在感を強めている。VWを含むドイツ勢はかつて中国市場の成長を最大の収益源の一つとしてきただけに、その競争環境の変化がグループ全体の収益構造を揺さぶっている。AP通信も、中国での競争力低下が今回の大規模改革を後押ししたと指摘している。

米国でも関税負担が収益を圧迫する。欧州ではEVへの移行が当初の想定通りには進まず、エンジン車とEVの双方に生産・開発投資を続ける負担が残る。こうした環境変化が、欧州だけで50万台を超える過剰能力として表面化した。そこでVWが打ち出したのが、販売台数をむやみに追うのではなく、900万台規模でも利益を生み出せる企業への転換だ。モデル数を半減し、仕様の複雑さを75%減らすのもそのためだ。少ないモデルに開発費と販売台数を集中させれば、1車種当たりの開発・生産コストを下げやすくなる。

営業利益率9%という2030年目標も、この転換を象徴する。VWグループの2026年上期の営業利益率は3.8%に低下しており、9%達成には単なる景気回復ではなく、大幅なコスト構造改革が必要になるわけだ。

欧州メーカーは、EV化に伴う巨額投資、中国メーカーとの競争、ソフトウエア開発費、米国の通商政策など複数の課題を同時に抱える。その一方、欧州の自動車需要が従来の成長軌道に戻る保証はない。VWが自ら「50万台超の過剰能力」を認め、ドイツを中心とする欧州工場の将来に踏み込んだ意味は大きい。今後の最大の焦点は、エムデン、ツヴィッカウ、ハノーバー、ネッカーズルムの4工場をどうするかだ。VWは現段階で工場閉鎖を決めたわけではなく、代替用途も検討する。強力な労使共同決定制度を持つVWが、約10万人規模の人員削減と欧州生産網の再編をどこまで実行できるか。未来計画2030はVWの再建策であると同時に、中国勢の台頭と市場成長の鈍化に直面する欧州自動車産業が「量から収益へ」と転換できるかを占う試金石となる。(2026年9月5日)