韓国の自動車部品メーカーが相次いで米国に進出する。現代自動車が2025年にも米ジョージア州でEVの現地生産を始めるのに加え、現代自傘下の起亜自動車も2024年初夏に同地でEV生産を始めるからだ。EVを軸に本格化する現代自グループの米国での生産増強の動きに、韓国の部品メーカーも追随する格好だ。自動車メーカーの進出に合わせて部品メーカーも足並を揃え現地生産に乗り出す、かつて日本企業が歩んだ同じ道ともいえるが、主役をEVに置き換えるなか旧態の垂直分業のサプライチェーンづくりでEV競争力は担保できるのか、という課題も浮き上がる。
米国ジョージア州のブライアン・ケンプ知事は共和党でも保守本流の政治家だ。今年で2期目となるなか、地元・ジョージアへの企業誘致はケンプ知事にとって最優先課題といえる。意外なのは、自動車産業をそのメーンプレーヤーにしたことだ。
ジョージアがEVで新たな自動車産業の中心地になるのか
ジョージアは元来、自動車産業にあまり縁があるとはいえない地だ。米国で自動車産業の中心地といえばGMやフォードが本拠を置き日本車メーカーも工場を構えるミシガンやオハイオ、というのが常套だろう。近年でこそEVメーカー「テスラ」がカリフォルニアを舞台に話題を振りまくが、裾野の広い自動車産業にとってジョージアは決して部品メーカーを含め自動車関連の生産拠点が立地する場所とはいえなかった。
そんなジョージアに唯一、自動車組み立て工場を置くのが起亜自だ。2009年にウエストポイントで操業し始め、現在では年間34万台を生産している。2年前になるが、このジョージアに10数年ぶりに自動車工場ができる、ことになった。新興EVメーカーのリヴィアンが、テキサスやアリゾナなどからの猛烈なラブコールをよそにジョージアでの工場建設を発表した。まさに、ケンプ知事政府が誘致に成功したわけだ。それから半年、今度は現代自動車が2025年の本格操業を目標に年産30万台規模となるEV専門工場を建設するという。さらに、時を置かず現代自傘下の起亜自が現ジョージア工場で2024年にもEVを生産する、と発表した。リヴィアンを含めジョージアでEV生産計画が一気に持ち上がり、同時にジョージアが全米でも新たなEV集積地として名乗りを上げた格好だ。
韓国部品メーカーの進出計画は7社で総投資額5億ドルに
ここに、韓国の自動車部品メーカーが相次いで進出を表明し加わった。今年4月以後だけでも、その数は7社に及ぶ。モビリティ・ラボのまとめでは、7社の総投資額は5億ドル、日本円で750億円に達する規模だ。彼らの狙いは、もちろん現代自グループの米国生産に対応すること。米バイデン政権によるインフレ削減法の施行で、EVの現地組み立てと現地部品の調達が求められるために他ならない。車両生産としても現代自の新工場「HMGMA]で30万台余、起亜自のジョージア工場でも30数万台となれば、そのビジネスチャンスとしても部品メーカーの工場進出に是非はない。ましてや、ジョージアに隣接するアラバマ州モントゴメリーには現代自の米国生産拠点「HMMA」がある。ジョージアは現代自・起亜自グループにとって、米国に展開する3工場を支えることができる立地の有利性もある。
親方の自動車メーカーに合わせて部品メーカーが帯同する、というのはかつての日本企業のように旧来型のサプライチェーンと映る。だが、その中核はエンジン部品のためで、今回の韓国メーカーの進出案件をみると、エンジン部品メーカーは1社もない。EV生産を支えるわけだから進出する部品メーカーもEV向けとなるのは当然のことだが、その裏腹に現代自にとってみれば韓国からわざわざ連れてこなければならない企業群ではなさそうだ。にもかかわらず、韓国メーカーが米国での現地生産に本腰を入れるのは、彼らにとってもはや「それ以外の選択肢はない」(業界筋)からだ。つまり、韓国内でのビジネスだけに頼ることはできない、との意識が韓国の部品メーカーにはある、ということだ。
テスラがそうであるように、EV生産のカギを握るのはバッテリーだ。バッテリーの供給体制を担保できなければ、車両組み立てに踏み切れないのがEV生産の特長そのものだからだ。現代自グループもすでにSKオンと連携するなど、すでに手は打っている。EV生産のための現地調達という点でいえば、日系を含め既存の米国生産部品を使うほうが新たに進出してくる韓国メーカーを選ぶよりも簡単なはず。だが、韓国の部品メーカーの米国進出を事実上容認するのはなぜか。現代自グループにとって、韓国企業を育成する思惑があると見て取れる。世界のEV潮流にどう対峙していくのか、韓国部品メーカーの米国進出から読み解くこともできそうだ。(モビタイムズ編集室)