
仏ルノー・グループ傘下のダチアは8日、小型電気自動車(EV)「スプリング」の第2世代モデルを発表した。車台から全面刷新し、ルノー・グループの新しい小型EV専用プラットフォーム「RG-EV Small」を採用する。航続距離は最大250キロメートル(WLTP複合モード)を確保した。従来モデルが中国生産だったのに対し、新型はスロベニアで生産する。欧州で手頃な価格のEVを求める需要を取り込み、中国メーカーの低価格EVに対抗する。ダチアは3月に2030年までの戦略としてEV4車種を投入する方針を打ち出しており、新型スプリングはその第1弾となる。
新型スプリング、ルノーのEV基盤で欧州生産

初代スプリングは2021年の発売以来、40カ国以上で累計21万台超を販売した。比較的安価なEVとして、欧州で初めてEVを購入する層を中心に支持を広げてきた。新型は「スプリング」の車名こそ引き継ぐものの、車両設計は全面的に改めた。車幅を従来モデルより18センチメートル広げ、安定感のある外観とするとともに室内空間を拡大した。
基盤にはルノー・グループの「RG-EV Small」を採用する。新型スプリングは、車両の設計・開発期間を2年未満に短縮する同グループの新たな開発手法を導入する最初のダチア車となる。開発期間だけでなく設計コストも抑え、必要な機能に絞り込むことで価格競争力につなげる。生産はスロベニアのノヴォ・メスト工場が担う。初代スプリングは中国・湖北省の十堰工場で生産され欧州へ輸出されていた。欧州生産への切り替えは、EU(欧州連合)が中国製BEVへの追加関税を導入するなか、ダチアにとって調達・生産面での競争力を高める意味も持つ。
航続距離250km、LFP電池と50kW急速充電
モーターの最高出力は60キロワット(80馬力)、最大トルクは175ニュートンメートル。停止状態から時速100キロメートルまで12.1秒、最高速度は130キロメートルとした。バッテリーには使用可能容量27.5キロワット時のLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を搭載する。航続距離はWLTP複合モードで最大250キロメートル。大容量電池による長距離性能を競うのではなく、都市部を中心とした日常利用に必要な性能に絞った。
標準車は6.6キロワットの車載AC充電器を搭載する。一般家庭のコンセントではバッテリー残量15%から80%まで約9時間、7キロワットのウォールボックスなら2時間55分で充電できるという。急速充電パックでは11キロワットAC充電と50キロワットDC急速充電に対応する。DC急速充電の場合、15%から80%まで28分としている。EVとして突出した充電性能を追求するのではなく、日常は自宅で普通充電し、必要な場合には急速充電を利用するという使い方を想定した。

室内も全面的に刷新した。7インチのデジタルメーターを全グレードに標準装備し、上級仕様「Journey」には10.1インチのセンターディスプレーを備える。「Media Nav Live」ではワイヤレスのアップル・カープレイとアンドロイド・オートに対応。欧州地図を利用するコネクテッドナビゲーションを8年間提供するほか、充電予約、乗車前の空調設定、車両位置確認などのサービスも利用できる。最小回転半径は4.95メートルとし、全グレードに電動パーキングブレーキと後方パーキングセンサーを標準装備する。運転支援機能(ADAS)の一部設定を始動時にまとめて呼び出せる「My Safety」も採用した。
中国製EVから欧州製の低価格EVへ
新型スプリングで注目されるのは、単なるモデルチェンジではなく、ダチアのEV戦略そのものが転換点を迎えたことだ。初代は中国で生産する既存の小型EVをベースに、低コストを武器として欧州市場を開拓した。一方、新型はルノー・グループの最新EV技術を使って欧州で開発・生産する。ダチアが「欧州でつくるAセグメントEV」を強調する背景には、欧州市場で中国メーカーとの競争が一段と激しくなっているためだ。欧州ではBYDをはじめ中国勢が低価格帯までEVの品ぞろえを広げる一方、欧州メーカーにはCO2排出規制への対応と、手頃な価格のEV普及を同時に進める必要がある。
そこでダチアが選んだのは、バッテリー容量や最高出力をむやみに引き上げず、日常の走行距離に必要な性能へ絞り込む方法だ。27.5キロワット時という比較的小容量のLFP電池、250キロメートルの航続距離、50キロワットの急速充電性能という構成は、その思想を端的に示す。新型スプリングの価格は今回の発表では明らかにしていない。初代が築いた「手の届くEV」という位置づけを欧州生産に切り替えた新型でも維持できるかが焦点となる。
2030年までにEV4車種を投入するダチアにとって、新型スプリングはその試金石となる。中国勢との価格競争が激しくなる欧州市場で、「必要十分な性能」と低価格を組み合わせた欧州製EVがどこまで支持を広げられるかが注目される。(2026年9月8日)