• 2026-09-18

VW、BEV開発を「電池の次」へ 車両全体の電費向上で競争力

独フォルクスワーゲン(VW)が、電気自動車(BEV)の競争力を高める新たな方向性を打ち出した。量産技術を使った試作車「ミッション・エフィシェンシー」で、空気抵抗係数(Cd値)0.158と、100km当たり6.89kWhの電力消費量を実現した。BEVを巡っては、電池の大容量化や低価格化、充電性能の向上が開発競争の中心となってきた。VWはこれに対し、空力、軽量化、タイヤ、ブレーキなど車両全体の技術を磨き、限られた電力でより長く走るという自動車メーカー本来の開発力を競争軸に据えようとしている。

フォルクスワーゲンのBEV試作車ミッション・エフィシェンシー
VWのBEV試作車「ミッション・エフィシェンシー」(写真:VW)

VWが14日に発表したミッション・エフィシェンシーは、市販を予定していない技術実証車。ただ、専用の高価な技術だけで構成した記録挑戦車ではなく、小型BEV「ID.ポロ」や「ID.クロス」に展開する前輪駆動の車台「MEB+」を基盤としている。

モーターもID.ポロ用の最高出力99kW(135馬力)を採用した。量産技術を基礎に、車両全体の電力消費をどこまで抑えられるかを検証し、その成果を将来の市販BEVに生かす。

同社によると、ミッション・エフィシェンシーは、ドイツの記録認定機関「レコード・インスティテュート・ジャーマニー(RID)」が定める「日常使用に適した量産直前の4人乗りBEV」のカテゴリーで、3件の世界記録を達成した。

一般道路の走行認可を取得した車両としてCd値0.158を実現したほか、一定速度で勾配がなく、エアコンなどを使わない理想的な条件では、100km当たり6.48kWhの電力消費量を記録した。

公道を使った長距離試験では、ドイツ北部ウォルフスブルクのVW開発拠点を出発し、ポーランドのポズナニ、チェコのオロモウツを経由してオーストリアのウィーンまで1278.36kmを走行した。

平均速度は時速67.72km、最高速度は同138kmだった。平均電力消費量は充電時の損失を含めて100km当たり7.51kWh、損失を除く車両側では同6.89kWhとなった。

搭載するバッテリーの使用可能容量は54.9kWhで、走行中の充電は1回だけだった。ウィーン到着時にも164km分の航続可能距離が残っていたという。

ただし、54.9kWhという容量は記録走行用にソフトウエアを変更し、通常の量産仕様より使用可能な領域を広げたものだ。量産車では電池の寿命を確保するため、実際に使える容量を52.0kWhに抑えるとしている。

ミッション・エフィシェンシーは全長4775mm、全高1392mmのクーペで、座席配置は2+2。荷室容量は481リットルを確保した。後席は身長約160cmまでの乗員を想定し、若い4人家族が日常的に使える設計とした。

車体にはID.ポロの部品のほか、アルミ製構造や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アラミド複合材を採用した。試作車は欧州連合(EU)の公道走行認可を取得し、安全性や車体強度、衝突安全に関する要件も満たしている。

高い電費性能を支えたのが、車体全体の空力設計だ。Cd値を0.158まで抑えたほか、前面投影面積を2.08平方メートルに縮小した。

車体は空気の流れを整える涙滴形状とし、冷却用の開口部を必要に応じて閉じるアクティブフラップ、後輪カバー、全面を覆った床下構造を採用した。ドアハンドルも車体表面と一体化し、空気の乱れを抑えた。

VWによると、時速80kmを超える速度域では、標準仕様のID.ポロに比べて電力消費量を30%以上削減できる。時速140kmで走行しても、ID.ポロが時速100kmで走る場合と同程度のエネルギー消費に抑えられるという。

タイヤとホイール周辺の抵抗低減にも取り組んだ。VWは、車輪部分が車両全体の空気抵抗の25~30%を占めると分析する。ホイール内部への空気の流入を抑えるリムディフレクターを開発し、空気の乱れを減らした。

タイヤは独コンチネンタルと共同開発した。「エココンタクト7」をベースとし、転がり抵抗を1トン当たり4.9kgに抑えた。EUタイヤラベルの最高区分「A」の基準値を約25%下回る水準としている。

後輪には電気機械式ブレーキを採用した。摩擦による損失を抑えるとともに、ブレーキ配管やブレーキ液を減らした。前後の制動力を状況に応じて配分し、回生エネルギーの回収効率と旋回時の安定性を高める。独自動車部品大手アウモビオと共同開発した。

ルーフとリアウインドーに太陽電池を採用したVWミッション・エフィシェンシー
ルーフとリアウインドーに太陽電池を採用した(写真:VW)

ガラスルーフとトランクリッドには最大出力370ワットの太陽光発電システムを組み込んだ。発電した電力を車内の電装品に供給し、季節や地域、天候によっては、実質的な航続距離を1日最大30km延ばせるという。

これまでのBEV開発では、電池容量やエネルギー密度、充電速度、電池コストが競争力を測る主な指標となってきた。電池を自社開発・生産するBYDは垂直統合によってコスト競争力を高め、テスラは電池に加えて車体、駆動系、ソフトウエアを一体で設計することでBEV専業メーカーとしての優位性を築いてきた。トヨタ自動車も次世代電池を軸に、航続距離や充電時間、車両効率を同時に改善する方針を示している。

VWの取り組みは、こうした電池技術の重要性を否定するものではない。電池だけに依存せず、空力や重量、タイヤ、ブレーキといった従来の自動車開発で培った技術を組み合わせ、車両全体でBEVの性能を引き上げようとするものだ。

バッテリーの大容量化は航続距離を延ばす一方、車両重量と製造コストを押し上げる。重量が増えれば電力消費が大きくなり、それを補うためにさらに多くの電池が必要になる。タイヤの摩耗や電池材料の使用量が増えることも課題となる。

電費を改善できれば、同じ容量の電池で航続距離を延ばせるだけでなく、より小さな電池で必要な航続距離を確保することも可能になる。車両価格や使用資源、製造時の二酸化炭素(CO₂)排出量を抑える効果も期待できる。

ミッション・エフィシェンシーの数値は試作車による記録であり、そのまま量産車に適用できるわけではない。CFRPなどの材料や、後席の居住性を制限した低い車体を、大衆向けBEVにどこまで採り入れられるかも課題となる。

それでも、量産車用のモーターや車台を使いながら、大幅な電費向上の可能性を示した意味は小さくない。BEV市場は電池容量や電池価格を中心とした競争から、限られた電池をいかに効率よく使い、車両として仕上げるかを競う次の段階に入りつつある。ミッション・エフィシェンシーは、その中でVWが選ぼうとする技術路線を示した試作車といえる。

(2026年9月15日)