• 2026-08-25

中国、430万台規模のリコール EVの電子式ドアに安全上の懸念、世界の車両設計に影響も

中国でEV(電気自動車)を中心に約430万台に及ぶ大規模なリコールが実施される。中国国家市場監督管理総局(SAMR)は21日、テスラや小米(シャオミ)などが届け出たリコール計画を相次いで公表した。事故などで車両の電気系統が機能しなくなった際、車内の機械式緊急ドアリリースが分かりにくく、乗員の脱出や車外からの救助を妨げる恐れがある。テスラなど9社の対象車両は約430万台に達し、中国で過去最大規模の自動車リコールとなる。

最大となるのはテスラで、対象は中国生産および輸入車の計297万5910台。9月25日からリコールを開始する。内訳は中国生産のModel 3が97万3,156台、Model Yが195万6,713台。輸入車はModel 3が3万5,590台、Model Xが8,328台、Model Sが2,123台となる。

SAMRによると、対象車は車内の緊急用機械式ドアリリースと内装の色が近く、位置を認識して操作することが難しいという。重大事故によって車両の低電圧システムが機能しなくなるなど最悪の場合は、乗員が迅速にドアを開けて脱出することや、車外からの救助活動に影響する可能性があるとしている。テスラは対象車に警告表示を追加するとともに、OTA(無線通信によるソフトウエア更新)によって車窓制御ソフトを変更し、事故後に窓を下げる制御を追加する。すでに警告表示がある車両については、改めて表示を追加する必要はない。

小米汽車は2024年型SU7シリーズの計39万435台を対象とする。内訳は33万9,069台と5万1,366台の2件。テスラと同様、緊急用機械式リリースと内装の色が近く、認識・操作しにくいことが理由だ。警告表示を追加するとともに、OTAによって中控システムの解錠ロジックや事故時の窓を下げる制御を最適化する。このほか零跑汽車(Leapmotor)が約37万1,000台、小鵬汽車(Xpeng)が約26万4,000台を対象とし、吉利汽車系を含む複数のメーカーもリコールを届け出た。ロイターによると、テスラを含む9社の対象は合計約430万台となり、中国の自動車リコールとして過去最大規模となる。

なお、テスラについては同じ8月21日、これとは別に中国生産のModel 3、Model Y計274万642台を対象とするリコールもSAMRが公表した。

EVを中心とする次世代車では、従来の機械式ドアハンドルに代わって、電気信号でドアロックを解除する仕組みが急速に普及している。車外ではボディー表面と一体化した格納・フラッシュ型ドアハンドル、車内ではレバーではなくボタンでドアを開ける方式などが代表的だ。空気抵抗の低減に加え、車体表面を滑らかに見せられるため、EVの先進性を象徴するデザインとしてテスラが普及させ、中国の新興EVメーカーなどにも広がっている。

もちろん、通常時なら利便性に問題はないが、重大事故によって12Vなどの低電圧電源が失われると電子式のドア開放装置が作動しなくなる。つまり、最後に頼ることになるのが機械式の緊急リリースとなる。今回、中国当局が問題にしたのは、その装置自体の有無ではなく、装置はあるものの、乗員が緊急時にすぐ発見し、操作できるのかという点だ。これは安全設計の考え方として重要な意味を持つ。「非常用装置を装備している」というメーカー側の設計要件を満たすだけではなく、事故直後の混乱した状況で、その車に不慣れな同乗者であっても直感的に操作できなければならないという、人間中心の安全性が問われ始めたからだ。

今回の大規模リコールは、中国が今後導入するドアハンドル規制の強化につながる点も注目だ。中国は2026年1月28日、強制国家標準「自動車ドアハンドル安全技術要求(GB 48001-2026)」を公布、2027年1月1日から施行する予定だ。新基準では、原則として各ドアに機械的にロックを解除できる車外ドアハンドルを設けることを求め、乗員拘束装置が作動するような事故や駆動用バッテリーの熱暴走が発生した場合でも、工具を使わず機械的にドアを開けられるようにすることだ。

さらに車外ハンドルについては、人が手で操作できる一定の空間を確保することなども規定する。このため、現在のようにボディー内部へ完全に隠れてしまうタイプのドアハンドルは事実上、設計変更を迫られることになる。ロイターは、中国がこうした「concealed door handles」を段階的に排除する最初の国になると報じている。つまり今回の430万台規模のリコールは、突然起きた個別の品質問題というより、中国がEV時代のドア安全基準そのものを見直す過程で表面化した問題と見る方が実態に近い。

メーカーへの直接的な経済負担は、430万台という台数から受ける印象ほど大きくならない見通しだ。今回の多くの対応は、警告表示の追加やOTAによるソフトウエア変更で実施できるからだ。テスラは事故後の窓制御を変更し、小米も解錠ロジックと窓制御をOTAで改善する。エンジンやバッテリーなど大型部品を交換する従来型のリコールに比べれば、改修コストや販売店への入庫負担を抑えられる。ロイターが引用した米調査会社AutoForecast Solutionsも、OTAによって大規模リコールに伴うコストや車両停止時間を抑えられるとの見方を示している。

今回のリコールに関連して、自動車メーカーの商品開発にも影響が及ぶ見通しだ。格納式ドアハンドルは、単なるドア部品ではなく、空力性能を高める機能であると同時に、滑らかなボディー面をつくり、EVらしい未来的な外観を演出するデザイン要素でもあった。しかし、今回の中国の新基準はまったく逆の発想となるからだ。

事故時にはドアを開ける場所が明確に分かり、電源がなくても人間が確実に操作できることを求める。いわば、「いかにハンドルを隠すか」から「いかに非常時に分かりやすくするか」への転換である。この考え方が定着すれば、次世代EVのエクステリアだけでなく、車内のドア開放スイッチや緊急リリースの位置、表示方法などにも影響する可能性がある。

この動きが中国国内だけにとどまらない可能性が高いのも注目点になる。中国は世界最大のEV市場であるだけでなく、中国メーカー各社は積極的に輸出に力を注いでいる。2026年7月には、中国のEVとプラグインハイブリッド車の輸出が前年同月比147.8%増となった。国内販売が低迷するなか、中国メーカーは欧州や東南アジア、中南米、中東などへの輸出を急速に拡大している。中国向けだけドアを別設計にするのか。それとも中国の新基準を満たす設計を世界共通仕様にするのか――。メーカーは今後、この判断を迫られる。

世界の自動車産業における中国の立場が変化するにつれ、こうした中国での新たな動きは世界市場にも波及することになりそうだ。かつては欧州、米国、日本などが策定した安全・環境基準に、中国メーカーが対応するという構図が一般的だったが、EVではその関係が変わり始めている。

巨大な国内EV市場と世界最大級の生産能力を背景に、中国が新しい技術に対する安全基準を先に策定し、海外メーカーが中国市場で販売するためにそれに対応するという構図が生まれている。テスラが約298万台という最大規模のリコールを中国で実施することは、その象徴ともいえる。さらに中国メーカーの輸出が増え、中国基準を満たした車両が世界各国で販売されれば、中国で定められた安全思想が結果として海外市場にも持ち込まれる。

今回の問題は単なる「中国で430万台のリコール」というニュースにとどまらないのではないか、との見方が広がっている。EV競争ではこれまで、航続距離、充電速度、巨大ディスプレー、OTA、スマートフォンとの連携など、「新しさ」が競争力として強調されてきた。格納式・電子式ドアハンドルもその象徴だった。中国市場の巨大さと中国車の輸出拡大を考えれば、今回のリコールと2027年からの新基準は、テスラや中国メーカーだけでなく、欧州、日本、韓国を含む世界の自動車メーカーの次世代車設計にも影響を及ぼす可能性がある。(2026年8月25日)