
現代自動車アメリカは20日、米国の急速充電網「IONNA(アイオナ)」で、対象となる現代自動車の電気自動車(EV)の充電料金を10%割り引くサービスを始めたと発表した。車両と充電器を接続するだけで認証・決済する「Plug & Charge」などを利用すれば、自動的に割引する。米国ではEV購入に対する連邦税額控除の終了後、EV販売が大幅に落ち込んでいる。自動車メーカー各社がEV投資計画を見直す一方、充電インフラでは中長期を見据えた投資が続いており、EVを「売る」だけでなく、充電を含めた保有コストや利便性を競う動きが強まっている。
割引サービスは8月19日から開始した。現代自が出資するIONNAの米国内すべての急速充電拠点が対象となる。さらに9月30日まではIONNAが10%を上乗せし、合計20%を割り引く期間限定キャンペーンも実施する。対象車は2022年型以降の「IONIQ 5」、2025年型以降の「IONIQ 5 N」と「KONA Electric」、2026年型以降の大型電動SUV「IONIQ 9」など。高級車ブランド、ジェネシスの「GV60」「Electrified GV70」の一部も対象とする。
割引を受けるには、現代自の「MyHyundai with Bluelink」アプリのIn-App Charging機能かPlug & Chargeを使って充電を開始する。クーポンコードなどを入力する必要はなく、対象車であれば料金に割引が自動的に反映される。現代自北米法人で商品企画・モビリティ戦略を担当するオラビシ・ボイル上級副社長は、航続距離への不安はバッテリーだけでなく、その周辺に構築されたシステムへの信頼の問題でもあるとの認識を示した。充電の信頼性や決済の簡便性を高め、EVを利用する際の障壁を一つずつ取り除く考えだ。
自動車8社が共同で充電網、30年に3万口
IONNAはBMW、ゼネラル・モーターズ(GM)、ホンダ、現代自、起亜、メルセデス・ベンツ、ステランティス、トヨタ自動車の8社が出資する急速充電事業である。テスラの「Supercharger(スーパーチャージャー)」が圧倒的な存在感を持つ北米市場で、自動車メーカー側が共同で充電インフラを構築する狙いがある。IONNAは2030年までに全米で3万口以上の高出力充電器を整備する計画を掲げる。2026年には100カ所を超え、今回の現代自の発表によると足元では150カ所以上に拡大している。コンビニエンスストア大手Circle Kとも提携し、既存充電拠点の転換を含め350カ所以上への展開を目指している。最大400キロワット級の急速充電器を設置し、NACS(北米充電規格)とCCSの双方に対応する。
北米の急速充電市場ではテスラが先行しており、テスラのスーパーチャージャーは北米の急速充電器の約4分の3を占める情勢だ。テスラによるこの充電規格NACSを主要自動車メーカーが相次いで採用し始めている。現代自も北米向けの新型・全面改良EVについてNACSを標準化する方針で、テスラの充電網を利用できる体制を整えている。一方でIONNAへの出資も継続し、既存のElectrify Americaとの関係も維持する。特定の充電事業者に依存するのではなく、利用可能な充電網を増やす「マルチネットワーク戦略」を採っている格好だ。
EV販売は減速、それでも充電網への投資を続ける理由
米国では2025年9月末に最大7,500ドルだったEV購入時の連邦税額控除が終了した。駆け込み需要で2025年7~9月期のEV販売比率は10%を超えたものの、その反動で販売は急減した。米調査会社のコックス・オートモティブによると、2026年1~3月期のEV販売は21万6,399台と前年同期比27%減少し、新車販売に占める比率は5.8%まで低下した。4~6月期は24万7,226台と前期から14.7%増えたものの、前年同期比では20.5%減と3四半期連続のマイナスとなった。一方、ハイブリッド車(HV)は需要を伸ばしており、米国の電動車市場は「EV一辺倒」からHVを含めた多様なパワートレーンを選択する局面に入っている。
自動車メーカーの戦略にも変化が表れている。GMはEV販売減少を受けて生産能力を調整し、2025年半ば以降のEV関連費用として累計100億ドルを超える損失・減損を計上した。フォードもEV・ソフトウエア部門で赤字が続き、2026年上期のEV販売は前年同期比で50%以上減少した。一方で両社ともEVそのものから撤退するのではなく、投資規模や投入車種、価格帯を見直しながら次の需要拡大に備える姿勢を維持している。
こうした環境下でもIONNAが充電網の建設を加速するのは、充電インフラが短期的なEV販売台数とは異なる時間軸の投資だからだ。IONNAのセス・カトラー最高経営責任者(CEO)は、充電網を早期に整備するほど、出資する自動車メーカーのEV販売を後押しできるとの考えを示している。米国ではEV普及の課題が、「1回の充電で何マイル走れるか」という航続距離だけではなく、「必要な場所で確実に充電できるか」「簡単に決済できるか」「いくらで充電できるか」という利用環境へ移りつつある。
現代自によるIONNA料金の10%割引は、こうした市場変化を映す施策といえ、自動車メーカーが充電事業に出資するメリットを自社EVユーザーの料金優遇という形で直接還元することで、車両購入後まで含めた顧客の囲い込みにつなげたい考えだ。EV需要が政策支援による急拡大期を終えた米国市場では今後、車両価格や航続距離だけでなく、「どの充電網を、どれだけ便利に、どれだけ安く利用できるか」まで含めたEVの保有体験が、自動車メーカーの競争力を左右する局面に入りつつある。(2026年8月21日)