
トランプ米政権は北米自由貿易圏の枠組みである米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し交渉において、自動車の域内調達比率(RVC)要件を現行の75%から82%へ引き上げるとともに、車両価値の50%を米国内で生産することを求める新たな提案を示した。米自動車業界メディアのCBTニューが報じた。5月29日に行われた米国とメキシコの二国間協議で提示されたもので、実現すれば北米自動車産業のサプライチェーン構造に大きな影響を及ぼす可能性がある。
北米自動車サプライチェーンに再編圧力、カナダ部品の扱いが焦点
現行USMCAでは、完成車が関税優遇措置を受けるためには車両価値の75%以上を北米域内で調達する必要がある。今回の提案では、この基準を82%へ引き上げるとともに、そのうち50%を米国内で生産した部品・材料で構成することを求めた。また、域内調達比率の算定においてカナダ製部品や車両価値を含めない方向が検討しているとし、これまで一体的に運営されてきた北米自動車生産体制に大きな修正を迫っている。
「米国製50%」を要求
CBTニュースは、トランプ政権内ではカナダからの自動車・部品輸出に対する不満が根強く、まずメキシコとの間で新ルールを協議したうえで、カナダとの交渉に臨む可能性があるという。米国側は域内価値計算の厳格化も求めている。対象にはエンジン、トランスミッション、大型車体部品に加え、電気自動車(EV)向けバッテリーが含まれる見通しだ。
背景には、2023年にUSMCA紛争処理パネルが、域内価値算定方法を巡る争いでカナダ・メキシコ側の主張を支持した経緯がある。米国は今回の見直しを通じて、より厳格な域内生産要件を導入したい考えとみられる。また大型商用車についても、域内調達比率を現行70%から75%へ引き上げる案が浮上している。次回協議は6月16〜17日にワシントンで開催され、7月20日の週にはメキシコシティで第3回協議が予定されている。一方、カナダとの正式な交渉日程は現時点で設定されていない。
今回の提案が実現すれば、自動車メーカーは米国内での部品調達や生産能力の拡充を迫られる可能性が高い。特にEV電池やパワートレイン関連部品の現地化圧力が強まり、北米全体で進められてきた最適生産体制の見直しにつながるとの見方が出ている。販売現場にも影響は及ぶとの見通しで、部品調達コストや生産コストの上昇を通じて車両価格の上昇要因となるほか、一部モデルでは供給や車種構成の見直しが迫られる可能性もある。
USMCA発効以降、北米自動車産業は米国、メキシコ、カナダをまたぐ高度に統合されたサプライチェーンを構築してきた。今回の提案は、その前提そのものを揺るがす内容として業界関係者の注目を集めている。(2026年6月2日)