• 2026-09-19

ポルシェ、自社の使用済み電池から新たなセル 再生正極材100%で試作

ポルシェの高電圧バッテリー資源循環プロジェクト

ポルシェは9月17日、使用済みの高電圧バッテリーから回収した原料だけで正極活物質をつくり、新たな電池セルを試作したと発表した。回収したのはリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンで、正極材に使う鉱山由来の一次原料を再生原料で全面的に置き換えた。試作セルは現在、性能や耐久性などの試験を進めている。将来はポルシェ車用バッテリーへの採用を検討する。

フォルクスワーゲン(VW)グループはすでに、ドイツ・ザルツギッターで使用済み電池のリサイクルに取り組んでいる。今回の特徴は、グループ共通のリサイクル事業とは別に、ポルシェ車から回収した原料を再びポルシェ車用電池へ戻す、ブランド単位の資源循環を目指している点にある。

今回の成果は、ポルシェが2025年3月に公表した高電圧バッテリーのリサイクル実証プロジェクトの一環で、ドイツの電池リサイクル企業cylibなどと共同で進めている。実証は3段階で行い、第1段階では開発車両で使用した高電圧バッテリーを機械的に破砕し、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどを含む粒状物の「ブラックマス」に加工した。ポルシェは2025年3月の時点で、約65トンのブラックマスを製造したと説明していた。第2段階では、ブラックマスを精製し、電池生産に必要な原料を分離・回収。第3段階となる今回は、回収した原料から正極活物質を製造し、新たな電池セルに組み込んだ格好だ。

同社によると、正極活物質に使うリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンは、高電圧バッテリーから回収した再生原料だけで構成したという。従来使ってきた一次原料を、再生原料で全面的に代替したことになる。だが、ポルシェが「100%再生原料」としているのは正極活物質を構成する対象原料であり、セルを構成する電解液、セパレーター、外装材などを含めた電池セル全体を再生していない。ポルシェは試作したセルの個数、電池の化学組成、容量、回収コストなどを公表しておらず、初期試験では技術的な成立性を確認したとし今後は品質、性能、耐久性などを詳しく検証すると説明している。

VWグループは、ポルシェに先立って電池リサイクルの基盤整備を進めてきた。2021年にはザルツギッターにグループ初の使用済みEV電池リサイクル施設を開設した。同施設ではまず、使用済みバッテリーを分析し蓄電設備などに再利用できる電池を選別。再利用が難しい電池については、放電、解体、破砕、乾燥などを経て、アルミニウム、銅、樹脂とともにブラックパウダーを回収する工程を持つ。ブラックパウダーに含まれるリチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどは、専門事業者による湿式精錬を経て、新たな正極材に利用する仕組みだ。当初の処理能力は年間最大3,600基、重量にして約1,500トン。VWグループは長期的に、電池材料の90%以上を回収することを目標に掲げている。

VWグループの電池子会社パワーコは、ザルツギッターを起点にグループ共通の電池セルと欧州域内の供給網を構築している。VW、アウディ、シュコダ、クプラなど複数ブランドで利用する電池の量産と原料調達を、グループ規模で効率化するのが基本的な役割となる。

VWグループがすでにリサイクル技術と回収基盤を持つなかで、ポルシェが独自の実証を進める理由は、グループとしてではなく「ポルシェからポルシェへ」の循環をブランドとして確立するためだ。ポルシェの投資子会社ポルシェ・ベンチャーズは2024年5月、cylibへ出資。cylibは電池の破砕だけでなく、ブラックマスの精製、原料回収までを一貫して手がける技術を持つ企業で、水を利用した処理工程により、リチウムや黒鉛、ニッケル、マンガン、コバルトなどについて、重量ベースで約90%を回収できるとしている。

つまりポルシェは、外部企業に使用済み電池の処理を委託するだけではなく、出資先の技術を自社の電池調達や車両開発に結びつけようとしているわけだ。さらに、ポルシェ用バッテリーでは高い出力性能、急速充電性能、耐久性、品質の安定性が求められており、その回収率が高いだけではなく再生した材料が新規採掘材と同等の性能を発揮できるかを確認することを求めているようだ。

今回の実証は、再生原料が一般的なEV用電池に利用できるかどうかだけでなく、ポルシェが求める高性能電池の基準を満たせるかを検証する意味がありそうだ。VWグループがグループ全体の大量回収と共通セル生産の基盤を整える一方、ポルシェは自社車両から回収した材料の出所を追跡し、再び自社向けの高性能セルへ戻す、まさに補完的な取り組みと位置づけられるとみるべきだ。

ポルシェとcylibは2026年5月から、ドイツ国内のポルシェセンターで回収した使用済み高電圧バッテリーのリサイクルを始めた。回収した原料は専用の「マテリアルアカウント」で管理し、原料の出所や量、再利用先を追跡する仕組み。ポルシェと一部の提携企業は2028年から、これらの再生原料を電池セル生産に利用できるようにする計画だ。ポルシェで調達を担当するヨアヒム・シャルナーグル取締役は、リチウムやコバルトなどの再生原料から電池セルを製造できたことについて、循環型経済と原材料供給の強靱化を進める重要な技術的節目になったとの認識を示している。

EUの電池規則、いわゆる電池パソポートはEV用バッテリーなどに一定比率の再生原料を使うことを段階的に求めている。2031年以降はコバルト16%、リチウム6%、ニッケル6%などの最低使用比率が適用される予定だ。今回の試作は、この規制水準を大きく上回る比率の再生正極材が技術的に利用できる可能性を示した。ただし、量産時にも品質を安定させられるか、十分な量の使用済み電池を確保できるか、一次原料と比較してコスト競争力を持てるかなど、実用化に向けた課題への対応が注目を集めている。また、ポルシェの取り組みは環境対策に加え、特定の国や地域に偏る重要鉱物への依存を抑える資源安全保障の意味を持つ。それだけに、ポルシェ車の電池材料を再びポルシェ車へ戻す仕組みが成立すれば、VWグループの電池循環戦略のなかでも、高品質なクローズドループを実証する先行事例となる。

(2026年9月19日)