• 2026-08-20

現代自とシェル、提携を2031年まで延長 EV時代へ「潤滑」から熱管理に協業拡大

現代自動車は19日、英シェルの潤滑油部門との戦略提携を2031年まで5年間延長すると発表した。2005年から20年以上続く協力関係を、従来のエンジンオイルやアフターサービス中心から、電気自動車(EV)向けフルードや冷却・熱管理、高性能車の共同開発へ広げる。EVシフトでエンジンオイル需要の縮小が見込まれるなか、自動車メーカーと石油・潤滑油大手が協業の軸を「内燃機関の潤滑」から「電動パワートレーンの性能・熱管理」へ移す動きが鮮明になってきた。

現代自とシェルは「グローバル・ビジネス協力協定」を更新した。次世代モビリティを対象とした共同研究開発(R&D)を拡大するほか、サービスマーケティング、モータースポーツ分野での協力を強化する。研究開発では、内燃機関向けエンジンオイルの品質向上を継続する一方、EV専用フルードや冷却液の開発を進める。シェルは今後の重点領域として次世代eフルード、熱管理、デジタル技術、高性能モビリティを挙げている。

現代自のカン・ボムソク・グローバルサービス担当上級副社長は、これまでの協業を通じ、シェルのエンジンオイルを世界の現代自ユーザーに提供することでアフターサービスの競争力と顧客満足度を高めてきたと説明。今後はモビリティー市場の変化に先行して対応し、長期的な競争力強化につなげる考えを示した。

両社が新たな協業の柱とするのがモータースポーツと高性能車だ。シェルは2026年から、現代自動車グループの高級車ブランド「ジェネシス」のGenesis Magma Racingでパフォーマンス・イノベーションパートナーを務めている。同チームが世界耐久選手権(WEC)に投入するハイパーカー「GMR-001」に専用潤滑油や冷却液を供給する。

協業は現代自の高性能車部門「N」にも広げる方針だ。高性能エンジン車に加え、高性能EV向けの潤滑技術を共同開発する。これらを通じて、高温と高負荷、長時間走行という厳しい条件にさらされるモータースポーツを「走る実験室」として使い、潤滑や冷却技術を検証したい考えだ。そこで得た知見を将来の市販車へ還流することで、EVを含めた車両性能の向上につなげる方針だ。

現代自とシェルの取り組みなど、自動車メーカーと石油・潤滑油大手が内燃機関時代に築いた長期的な関係をEV向け技術へ移行させる動きはすでに始まっている。JLRとカストロールは、カストロールは2019年からフォーミュラEに参戦するJaguar TCS RacingのパートナーとしてEV専用フルードの共同開発で組んでいる。高回転の電気モーターや高温になるギヤボックスなど、EV特有の厳しい使用環境をレースで検証し、そこで得た知見を将来の市販EVにつなげる取り組みだ。また、2023年には、レース車「Jaguar I-TYPE 6」から回収した使用済みEVトランスミッションフルードの基油を再精製し、新たなフルードとして再びレースで使用した。JLRはこの技術を将来の市販車にも展開する方針を示している。

こうした取り組みが広がる背景には、EVシフトによる潤滑油ビジネスの構造変化と見られている。EVではエンジンオイルの定期交換が不要。世界の新車市場でEV比率が高まれば、石油・潤滑油会社にとって巨大な収益源だった自動車用エンジンオイル市場は中長期的に縮小する可能性が高い。

一方で、EVから「液体」がなくなるわけではなく、モーターや減速機、ベアリングには潤滑が必要とされている。バッテリーやインバーターなどの温度管理が車両性能を大きく左右するほか、とくに急速充電や高出力化が進めば発熱量が増し、熱をいかに効率的に制御するかが充電性能や電池寿命、航続距離、耐久性にまで影響する。

EV用フルードには従来の潤滑性能だけでなく、熱を効率的に移動させる性能や電気系統との適合性など、新たな機能が求められる。実際、フォーミュラEでも高回転モーターや高温・高摩擦環境で作動するギヤボックスに対応した専用EVフルードが使われている。

この変化は、潤滑油メーカーの競争領域そのものを変えようとしている。内燃機関時代の主な役割は、エンジン内部の摩擦や摩耗を抑え、耐久性や燃費を高めることだった。EV時代にはこれに加え、モーター、減速機、バッテリー、パワーエレクトロニクスなど、電動パワートレーン全体の効率と温度をどう管理するかが重要になる。

つまり競争の軸は「エンジンを守る油」から「電動車の摩擦と熱を制御する技術」へ広がりつつある。現代自とシェルの今回の提携延長も、この産業構造の変化の延長線上に位置づけられている。20年以上続いてきた両社の関係をEV化によって縮小するのではなく、協業する技術領域そのものを変えることで維持・拡大しようとしている。エンジンオイルとアフターサービスを中心としていた関係を、EVフルード、熱管理、高性能EVへと広げようというものだ。

さらにGenesis Magma Racingと現代自「N」という高性能ブランドを技術開発の場に位置付けた。これはJLRとカストロールがフォーミュラEをEVフルードの実験場として活用してきたのと共通する発想であり、モータースポーツがEV時代にも市販車技術を磨く役割を担うことを示している。

今回の提携は、この分野で現代自とシェルだけが先行するというより、世界の自動車メーカーと石油・潤滑油大手の関係がEV時代に合わせて再構築されていることを示す一例と見るべきだろう。EVシフトは、自動車メーカーと石油会社の関係を終わらせるのではない。燃料やエンジンオイルを供給する関係から、電動パワートレーンの効率や熱を共同で管理する技術パートナーへ――。現代自とシェルが2031年まで提携を延長した意味は、そうした自動車産業のサプライチェーンの変化にある。(2026年8月20日)