
吉利汽車が2028年から、傘下のボルボ・カーズが欧州に持つ工場でグループの高価格帯車を生産する計画であることが分かった。独経済紙ハンデルスブラットなど欧州メディアが報じた。中国から完成車を輸出するだけでなく、既存の欧州生産拠点をグループ横断で活用する。欧州連合(EU)が中国製電気自動車(EV)への関税を強化するなか、吉利が欧州事業の現地化を加速する動きとなる。
ボルボ、余剰能力の活用狙う
EV専門メディアのエレクトライブによると、吉利汽車の安聡慧(アン・コンフイ)会長が上期決算に関する会議で、ボルボの欧州工場をグループの現地化戦略の重要な生産基盤とする方針を明らかにした。2028年から吉利汽車のブランド群に属する高価格帯モデルの生産を始めるという。対象となるブランドや車種、生産工場は明らかになっていない。
吉利汽車は中核の「Geely」に加え、高級EVブランド「Zeekr(ジーカー)」や「Lynk & Co(リンク・アンド・コー)」などを展開している。中国の自動車専門メディアCarNewsChinaは、高価格帯車を対象とすることからZeekrやLynk & Coなどが候補になる可能性を指摘している。ただ、吉利側は具体的なブランドや車種を公表していない。ボルボは欧州でスウェーデンのヨーテボリ、ベルギーのゲントに車両工場を持つほか、スロバキア東部コシツェに新工場を建設しているが、どの拠点で吉利車を生産するかも明らかになっていない。
ボルボが中国の親会社に欧州の生産能力を開放する構想は以前から浮上していた。ハンデルスブラットは4月、ボルボのホーカン・サムエルソン最高経営責任者(CEO)が吉利について「欧州の生産能力で支援できる」と述べたと報じた。ボルボにとっては工場の稼働率を引き上げ、生産効率を改善する利点があるわけだ。同紙は7月にも、ボルボが吉利との協力を経営改善策の一つに位置づけ、欧州工場を中国側の生産に利用する可能性を報じていた。とりわけゲント工場は候補として注目されている。ボルボはベルギー連邦政府とフランダース地方政府との間で同工場への投資と長期的な操業を支援する枠組みを進めており、将来的に他ブランド車を受託生産する可能性も想定されている。
ボルボは足元で収益環境が悪化している。ハンデルスブラットによると、2026年4~6月期の売上高は前年同期比17%減の約770億スウェーデンクローナとなり、営業利益は約8億クローナと前年同期からほぼ半減した。工場の稼働率向上は固定費負担を軽減するうえでも重要になる背景もある。
フォードともスペインで共同生産
吉利はボルボとは別に、米フォード・モーターの欧州工場を活用した現地生産にも乗り出す方針だ。吉利とフォードは7月、スペイン・バレンシア工場を拠点とする合弁会社を設立すると発表。吉利が34%、フォードが66%を出資し、2028年から吉利ブランドのEV2車種とフォード車を同工場で生産する計画だ。ロイター通信によると、バレンシアで生産する吉利車には、すでに欧州で販売する電動SUV「EX5」と未発表の1車種が含まれる。両社は欧州市場向けの新型クロスオーバー車も共同開発する見通しだ。中国メーカーが欧米自動車メーカーの余剰生産能力を利用して欧州で現地生産する動きが広がっている動きのひとつとして伝えている。
中国勢、欧州戦略は「輸出」から「現地生産」へ
吉利によるボルボ工場の活用計画は、中国自動車メーカーの欧州戦略の転換点となりそうだ。すでにEUは中国製BEVに追加関税を課しており、中国から完成車を輸出するビジネスモデルには通商上の負担が増している。一方、新工場を建設すれば巨額の投資と時間が必要になる。
この点、吉利は2010年に買収したボルボという欧州の生産基盤を生かす利点がある。英フィナンシャル・タイムズは今年4月、吉利が海外で新工場を相次いで建設するのではなく、ボルボのスウェーデン、ベルギー、スロバキアの既存設備を活用して欧州生産を拡大する方針だと報じていた。ハンガリーやトルコで新工場建設を進める中国BYDなどとは異なる欧州進出モデルとなる。
吉利はさらにフォードとも生産能力を共有する。ロイターによると、同社は今後2~3年以内に欧州で年間60万台の販売を目指している。中国勢の欧州進出はこれまで、中国製EVを域内へ輸出する「販売攻勢」として捉えられることが多かった。だが、吉利はボルボやフォードが持つ既存工場を活用し、欧州で生産する体制づくりに動いている。
欧州メーカー側にも、販売環境の変化で余剰となった生産能力を有効利用し、雇用を維持できる利点がある。中国メーカーにとっては巨額の新工場投資を抑えながら、関税や現地調達規制への対応力を高められる。
中国メーカーと欧州メーカーが「競争相手」である一方、生産設備を共有する「協業相手」にもなる――。吉利によるボルボ欧州工場の活用計画は、中国勢の欧州進出が輸出中心から現地生産へ移るとともに、欧州自動車産業の生産体制そのものが再編局面に入りつつあることを示している。(2026年8月20日)